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私を一人前の表具師に育ててくれた師匠が亡くなって、ひと月が経ちました。
思い出の抽斗から懐かしい出来事があれこれと顔をのぞかせる1ヶ月でした。

掛け軸なんかにまったく興味がなかった20年前、
どういうわけか表具教室に飛び込んだ大胆な私です。
講座が終わった時に、「うちに来ないか」とスカウトされました。
先生が私の才能を見抜いた、というよりも
ほとんどが年金生活者の受講生の中で、ダントツの若さが光っていたのでしょう。
30代という、仕込めばモノになりそうな将来性が買われたのだと思います。

私のほうは、小遣い稼ぎの腰掛パートのつもりでしたが、
手取り足取り教えられて、とうとうどっぷり表具のおもしろさにハマってしまいました。
やがて独り立ち、今ではツレアイとともに表具屋家業で生計を立てています。
楓林堂がこうしてあるのも先生のおかげなのです。

表具屋はお客さまからの依頼品を表具するのが第一の仕事ですが、
師匠から伝えられた技術を次に伝えていくのもだいじな仕事だと思っています。
順繰りに伝えていくことで、表具の中身の作品は何百年も脈々と生きていけるのです。
さて、私たちは誰にこの表具技術を託すのでしょうか?
未だ見ぬ未来の表具師を思い描いています。


わが家の庭先のツバキ。むかし先生のお宅からもらったものです。
  思い出の木になりました。
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あっという間に3月も後半、別れの季節を迎えています。
この時期になるといつも心に浮かぶのは
過ぎ去ってゆく者として抱かれおり 弥生3月さよならの月
歌人俵万智さんが詠んだ歌です。

写真は色紙掛けです。
今月末に離任される方に寄せ書きする色紙に添えて
色紙掛けも贈りたい、と依頼を受けました。
いかにも和風という感じではなく、洋間にマッチする、額のような軸を、
というご要望がありました。

本来掛け物は本紙(色紙の部分)の上下が2:1の寸法で作るものです。
けれども伝統の形式や寸法にこだわらないで作ることもできます。
なんでもありの「創作表具」です。
もちろん、なんでもありといっても、表具としての品格を失わない範囲内での
自由なかたちならOK、と考えています。

裂は利休紬、軸先は有鱗竹を使い、
アクセントに左右にピンクの細いスジをあしらいました。
今は未だまっさらな色紙に、どんな言葉が寄せ書きされるのでしょうか。
送る人たちのこころのこもった色紙が仕上がり、この色紙がけに納まって、
末長く飾ってもらえることを、製作者は願っています。




このブログの最初の記事は「みんな なかよし ひらいずみ」という
平泉の成り立ちをやさしく紹介する紙芝居作りのおはなしでした。
その後、あちこちで上演されていますが、来月も花巻と一関であります。

紙芝居といえば子どもが観るものですが、なかなかどうして、
子ども相手に作っているので清衡公の生い立ちや思いがよくわかります。
あっという間に終わってしまいますから、お買い物の足を止めていただければ、
と思います。

花巻市大迫町雛祭り 
 ・3月3日(水)11時~
 ・大型紙芝居上演特設会場にて
 ・読み聞かせボランティア「たんぽぽ」さんが上演 

イオン一関店開店3周年祭 
 ・3月7日(日)14時~
 ・イオン一関店にて
 ・県南振興局の女鹿智恵さんが上演

写真は原画を元に平泉中学校の美術部の生徒さんたちが
東山和紙に拡大して完成した直後のものです。





平泉文化会議所の情報誌「東方に在り」が、今月10日に発行されました。

年に1度の刊行ですが、今回で第11号になります。

特集は「まちの風」。

世界遺産登録をめざす平泉町に暮らす人びとが

それぞれの立ち位置から自分たちの町の昔・今・将来を見つめて、

つつましく、それでいて力強く活動しているようすがわかります。

まだ微風としか感じられない「まちびとたちがおこす風」が、いつか旋風となって、

再び『平泉の時代』がやってくることを願わずにはいられません。

どうぞ、ご購読ください。

当工房でも取り扱っております。

 

「東方に在り」

 平泉文化会議所編集委員会/編集

 平泉文化会議所/発行

 定価/500円



表具屋には役得がいっぱいあります。

このことは修業時代に師匠からも聞かされていました。

若いころ大工だった師匠いわく、

「大工、建具屋、配管屋、塗装屋、板金屋・・・世の中に職人はたくさんいるが、

床の間のある座敷に通されてお茶を出されて仕事を頼まれるのは表具屋ぐらいなもんだ。それにろくに学校も出てないのに表具教室で『先生』と呼ばれて、 可笑しなもんだ」

 

開業してみて、納得!

 そして役得はもっともっとたくさんありました。

 

たとえば、

お客さまのだいじなお宝の掛け軸や額などを仕立て直しするためにお預かりします。

普通ではおいそれと見ることのできない名品をしばらく手元において鑑賞できるゼイタク。

その作品の内容を知る楽しみもついてきます。

最近では水墨画の掛け軸から「漁樵(ぎょしょう)問答」、額から「韓信の股くぐり」の故事ことわざを知りました。

 

また古い額や屏風、ふすまを解体した時にたまたま見つかる書き付け証文や手習いの筆跡。これは紙の貴重な時代、下張り紙として反故紙を再利用したのですが、興味深いものです。

読み慣れない筆字をたどっていくおもしろさや日付を見つける楽しみがあります。

代用に新聞紙が張ってあるときもあって、赤茶けたニュース記事や当時の広告が
こつぜんと現われます。

時間も仕事も忘れて、ついタイムスリップしてしまうのです。

 

「韓信股くぐりの図」



あわただしい年末を過ごして、お正月も無事乗り切ったと思っていたら、
あっという間に1月も半分過ぎてしまいました。
遅ればせながら・・・今年もよろしくお願いいたします。

今日は今年初めて中尊寺に行ってきました。
例によって仕事がらみで出かけ、打ち合わせのあと金色堂の前まで足をのばしました。
朝だったので人出も少なく、お札所の職員さんが雪掃きをしている姿が印象的でした。

帰ってきてから気づいたことには
いつもひとかたならずお世話になっているお寺のご本尊さまに
「この1年もよろしくお願いいたします。平穏に過ごせますように」と手を合わせてくるのを
すっかり忘れていた体たらく。

そういえば今日は小正月。
参拝すれば元朝参りになったかもしれないのに、残念!




ふりかえれば、いろいろあった1年です。
表具業界は不景気風が吹きすさぶ1年でした。
年明け早々、付き合いのある表具材料屋さんが不渡りを出して夜逃げ。
外販員さんからのメールに驚いていたら
そのあと京都の織元さんや馴染みの額屋さん、
それに盛岡の材料屋さんも潰れたという話が聞こえてきて、
こんな話題ばかりが同業者のお茶のみ話のタネになりました。
「明日はわが身か・・・」と、すするお茶も心なしか冷たく感じます。
 
来年は、来年こそは、いい年になってほしいものです。
ささやかな願いをかけに、初詣に行くのでしょうね。
 
昨日は仕事で中尊寺まで行ってきました。
本堂の境内は仮設の建物が建ち、提灯が取り付けられて、
参拝客を迎える準備は着々と進んでいました。
 
秋から初めたブログですが、今年はここまで。
来年もよろしくお願いいたします。
そうそう肝心の、表具のほうもよろしくお願いいたします。
よいお年をお迎えください。



取り立ててお知らせする新着情報はなく、今日も表具のおはなしです。
新しく仕立てるのもいいのですが、古くなって汚れたり破れた掛け軸や屏風の仕立て直しは、表具屋にはとてもワクワクするものです。
真新しい書や水墨画は回りが裂で囲われて、ステキな装いになるのは当たり前のこと。
ですが、古くなって字も満足に読めない、絵も汚くなって床の間に掛けられない、というシロモノを仕立て直すのは、仕上がったときの落差があってとても愉快です。
所さんのリフォーム番組のビフォー・アフターの家と同じです。
(ちょっとスケールは小さいですが・・・)
 
表具屋の言葉で「洗い」といいますが、古い表具から本紙(書画作品)だけを取り出して、
ぬるま湯をかけて刷毛でやさしくその湯を掃き出してやると、汚れも一緒についてきます。
頑固な汚れは薬品で処理しますが、これはみちがえるほどの効果があります。
黒墨だけの絵だと思っていたら、汚れの下からさまざまな色が現われたりして楽しい発見もあります。
写真は作品の古い裏打ち紙を剥がしているところです。
このあと微温水をかけて刷毛でやさしく撫ぜると汚れが流れ出してきます。
牛の下のほうにある汚れのシミも取り除くことができました。

 


仕立てたのではありませんが、とてつもない大きさの掛け軸を修理したことがあります。

ホームページトップの写真がそのときのものです。

江戸時代に描かれたと言われている「釈迦涅槃図」で、正法寺の所蔵です。
何度か仕立て直しと修理が繰り返されてきましたが、
現在の表具は菊地表具店(奥州市水沢区)の仕立てで、菊地傳さんは私たち夫婦の師匠です。
2006年、正法寺の「平成の大改修」の完成に合わせて修理することになり、本堂での作業となりました。小舞台の緞帳のような大掛け軸は、寝かせたら大きな座敷がいっぱいになるほどでした。

カビを取りのぞいたり小さな剥がれを補修すると、いよいよ天井の滑車に掛かった太い綱に吊るして作業はおしまいです。が、師匠とツレアイと私の3人ではとても力が足りません。
若い修行僧の皆さんとにぎやかに引っぱって、掛け軸は無事、立ち上がりました。
本堂東室中の間に常時掛けられていますので、どうぞご覧ください。




 正法寺
  岩手県 奥州市水沢区黒石町正法寺129
  TEL 0197-26-4041



これまで手がけたうちでいちばん大きな掛け軸は、「蝉丸」という能の一場面を描いた作品の表具です。

大正期に表装されたとおぼしき掛け軸は歳月を経て糊が枯れ、作品と回りの裂地、裏打ち紙のあいだが部分的にはがれてきていました。

そのための仕立て直しです。

 


まず古い裏打ち紙を丁寧にはがし、作品だけを取り出して新しい表具を施していくのですが、解体(?)していく際に現われる先輩職人の緻密な技には思わずため息が出ます。

「なんでも鑑定団」の中嶋先生の名ぜりふ「いい仕事をしてますねえ~」ではありませんが、「きっちりとした、いい仕事」を目の当たりにできた幸せを感じます。

その幸運と、今回の表装者となった楓林堂の技術は次の表装者に恥ずかしくないものだろうかと、少しドキドキ不安な気持ちが入り混じった思いでお客さまに納めたのでした。

 

写真はあまりに丈が長くて工房に掛からず、自宅の階段の壁面を利用して掛かり具合を確かめているところです。



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